ここで待ってます

喜怒哀楽のなぐり書きですが。

背中に冷水を一滴

今日もお暑うございましたね。

おまけに風がものすごく強くて、犬散歩のとき帽子が飛ばされそうになりました。床屋に(床屋!?ヘヤーサロンですね)行けていないので、髪も花壇同様もさもさになってまして、帽子は必須なのであります。

 

珍しく二回目の更新をしてみます。

せっかく夏日のような暑さになりましたので、少し涼しくなるお話でも。とはいっても、私の話はいわゆる怪談ではありません。稲川淳二センセイのような怖がらせスキルもありませんし、そもそも幽霊とかってあまり信じていないのです。貞子さんや、裏のメシ屋の柳の下にいるような、白い服に長い髪の、ステレオタイプの幽霊なんてのは、まずいないと思っています。タクシーの座席を濡らして消えてしまう女性の、水分はいったいどっから出てくるのさ!?とも思ってしまいます。

ただ、不思議なことはたくさんあります。あれ?みたいなことは日常の中のいたるところで出会うものなんですね。

もう30年ぐらいも前のことですか。当時私は夫とよく新宿の、ちいさなバーに出かけていました。そこは夫が独身時代から行きつけの店で、うす汚れた雑居ビルの地下にある飲み屋さんでした。初老のマスターが一人でやっていて、店内はカウンターとその後ろにボックス席が三つぐらいの、ほんとに狭いバーだったのです。近くの機動隊の猛者たちで賑わうときもありましたが、私たちが行ったその日は誰もおらず、店内は静かでした。

夫と並んでカウンターに座り、飲みながらマスターとたわいない話などをして、一時間もした頃でしょうか、ドアを開けて若い女の子が二人入って来たんです。女の子が入ってくるなど非常に珍しかったので、私は夫の肩越しにその子たちをじっくり見たのです。手前にいたのが赤地に白い水玉模様のワンピースを着た、ショートカットの、とってもキュートな子で、嬉しそうにニコニコ笑っていました。後ろにいたのが、もう少し暗い、というかおとなしめのロングヘアの子で、白っぽい涼し気なブラウスを着ていたと記憶しています。どちらもとても綺麗な女の子でした。彼女らは笑い声をたてながら、カウンターの私たちの後ろを通り、奥に消えました。

ボックス席に行かなかったので、私はああお客さんじゃなくて、マスターが新しいバイトの子を入れたんだなと思いました。以前マスターがそんな話をしていたからです。奥で支度でもしてるんだなと、なんの疑問ももたずにそう思ったのです。ところが、しばらくたっても女の子たちは出てきません。あれれとなった私は隣の夫に聞きました。

「ねえ、さっき入ってきた女の子ふたり、新しいバイトの子だと思うんだけど奥に行ったっきり、出てこないね」

「ああ、着替えでもしてんじゃないの?」夫は確かにそう言いました。

しかし、いくらたっても彼女らは姿を見せず、そのうち厨房に入っていたマスターがおつまみ片手に戻ってきたので、私は再びマスターに同じことを聞いたのです。

「ねえ、マスター、バイトの彼女たち、どうしちゃったの?」

「ええ?」マスターはけげんな顔で私を見ます。

「なんのハナシ?」

「なんの・・・ってさっき女の子二人入ってきて、奥に行ったじゃない。バイトを入れたんでしょ?」

「はあ?」とマスター。「誰も来ないよ。お客はアンタたちだけ。紺ねずちゃん、もしかしてもう酔っぱらった?」

それに追い打ちをかけるようにして夫が呆れた顔で言ったのです。

「何言ってんのオマエ。まだ一杯しか飲んでないのにもう酔ってんのかよ」

私は腹がたってきて、夫にくってかかりました。

「自分だってさっき、奥で着替えでもしてんだろって言ったじゃない!」

「へえ?そんなこと言ってないよ。ホントお前、どうかしてんじゃないの?」

夫は私とずーっと夏休みに行くつもりの旅行の話をしてたと言うのです。誰も入ってなど来なかったし、私自身もなに買おうかなとかそんなことしか言ってなかったと。

女の子が入って来たなんて話は一切してないって言うんですよ。

頭が混乱してるうちに、ドタドタと階段を下りてくる音がしてなじみの、夫の後輩たちが派手にドアにくっついたカウベルを鳴らして入ってきました。もう夫は後輩の若者たちと騒がしい挨拶をはじめて、私はひとりあれーあれーと考えていたのです。

そうだった。このバーに降りる階段は木製で、ボロだからさっきみたいにものすごく足音が響くんだった。それでドアには誰かのお土産で貰ったらしい大きなカウベルがついてるから、開け閉めするたびにやかましく鳴るんだった。私はさっき女の子たちが入ってきたとき、その音を聞いたっけ?それに奥に着替えの部屋なんかないよ、そもそも。奥はすぐつきあたりの壁で、右に厨房の扉、左にトイレの扉があるきりだよ。でも確かに私は女の子ふたりが楽しそうにやってきたのを見たし、私の後ろを通ったし・・・でも後ろを通る気配なんかしたっけ?人がひとり通るのがやっとで、それも服の端とか体の一部とか、どこか必ず触れてしまうぐらい狭いのに。

それに夫と確かにしたあの会話・・・・・。

私の不思議な話はこれだけです。

今でも彼女たちの顔、服装、笑顔、笑い声は鮮明に覚えています。

ほんと、煙のごとく消えてしまった綺麗なあの子たちは何者だったんでしょう。

どこかへ行くところだったのか、お洒落をして、ものすごく楽しそうでしたが。足だってちゃんとありましたよ。ヒールのある靴をはいてたの、ちゃんと見たんですから。たぶん現世の人たちではなかったのでしょうけれど、私に見られたので、なんかちょこっと小細工をしてみたのかもしれませんね。

幽霊って、そんな工作ができる力、持ってるんでしょうか?映画「ゴースト」のサムなんて、空き缶ひとつ蹴飛ばすのだって大変な苦労をしてましたけどね。それとも、もっとなんというか、高度な技を使える方たちだったのかな。

もうそのお店も、マスターもこの世にはおりません。

この世とあの世のつながりって、どこかにあるものなんでしょうかね。

また長々と、たわいもないことを書いてしまいました。

さて。

 

ちょっと振り向いてみてください。

あなたの後ろに・・・・・。

 

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うふふ。