ここで待ってます

喜怒哀楽のなぐり書きですが。

その何十倍も心配したんだからね

以前に。

駅のホームで高齢の母親らしいお婆さん(義母か実母か)を

大声で怒鳴りつけているオバサンを見たことがあります。

もうその怒りようといったら凄まじいもので。

お婆さんはしくしく泣いていました。

 

平日の昼間で、田舎の駅のホームにはその二人の他に私しかおらず。

他人様のもめ事にはすぐ動揺してしまう小心者の私は、ただただ

おろおろと見守るばかりでした。

 

オバサンが早口でまくしたてている言葉の切れ端から察するに、

どうもお婆さんは少し認知の気配があるのか、オバサンが切符を

買っている間に、ひとりでトコトコと階段を下りて来ちゃったようで。

(もちろんまだ自動改札じゃなかった頃です)

「階段から落ちてやしないか、線路に転がってやしないかっ!!!」

「どんだけ探したと思ってんのよっ!!!」

「もー!どんな気持ちがしたか、わかってんのっ!!!」

 

オバサンも泣いていました。

泣きながら、わーわーとまくしたてているのです。

 

ああそうか。

オバサンは、どこか行ってしまったお婆さんをハラハラしながら

探しまくっていたんだな。

その怒りの何十倍も心配しながら。

 

心配の果て。安堵の次にくる感情は、怒りです。

「ふざけんじゃないわよっ!!」です。

これは私も何度も経験しましたから、とてもよくわかります。

 

私の夫は、元警察官であります。

もー何年も前に無事退職しまして、ごくフツーのプレおじいさんに

なりましたんで、もう言っちゃってもいいかなと。

今はお酒飲まない人も多いですし、生活も考え方も全く違いますよ。

あくまで何十年も昔、私の夫が現役バリバリの頃は・・のハナシです。

今現在の警察官の方々の名誉のためにも、どうか現世とは切り離して

読んでいただけることを願います。

 

夫は機動隊あがりの、もろ体育会系の人です。

当時の機動隊というのはですね、もう軍隊、いや愚連隊(言い過ぎ?)。

まああの、物騒なことも多かった時代でしたからね。

当然、お酒は浴びるように飲みます、というか飲まされます。

今だったらハラスメント間違いなしのアレコレがあり、野蛮この上ない

武勇伝とやらは、私もたくさん聞かされたことが。

でね、そういう若い機動隊時代を離れ、所轄だの、どっかだのに行っても

まーだそういう尾っぽをひきずっているわけですよ。

どこへ行っても、あの時代の先輩だのが必ずいるんですから。

可愛い奥さん(短期間だけどそういう時も!)をほったらかして、

まー飲み歩くし帰ってこないし。通常の勤務でいない時も含めたら、

結婚生活の半分強はお留守だったのではないでしょうかね。

 

酔っぱらって交通事故にあったなんてハナシはたくさん聞きました。

そうでなくても体を壊した人、精神を病んでしまったり、家庭がもう

めちゃくちゃになった人なんてのはいっぱいましたよ。

もちろん真面目に円満な家庭を築いている人格者の警察官のほうが

ずっと多いわけなので、ここも誤解なさらないでくださいね。

 

その電話がかかってきたとき、むむ、と妙な予感はしました。

深夜でした。あの頃は地方都市に住んでまして、終電なんかとっくに

なくなっていた時間帯でした。

「〇〇警察署です」

電話に出るとさっそくいやな予感的中の名乗りが。

もちろん夫の勤務先の警察署ではありません。

うーんと離れた先の駅のホームで、寝転がってる人がいるって通報受けて

行ってみたら酔っ払いが寝てる。所持品あらためたら、なんと警察手帳が

でてきてビックリしちゃったよ奥さん!てな電話でしたよ。

線路上の轢死体でなくて何よりと、安堵したのは言うまでもありませんが

次にわき起こるのは怒りです。それもハンパないムカつきです。

交番に置いてあるんで取りに来てよ奥さん(しょうがない落とし物だ)と、

夜勤ご苦労様ですな係員さんが半分迷惑そうに言ったことに。

「いいえ」私、キッパリ。

「いい薬です。トラ箱に入れちゃってください」

ご存知かと思いますが、トラ箱とは泥酔者専用の、特別な収容施設です。

 

電話の向こうが一瞬、静まりかえりましたね。

「お・・・おくさぁん・・・・」

あの声は、今でも忘れません。

で、不謹慎で申し訳ないのですが、思い出すたびに

おかしくて口元がゆるんできちゃうのです。

 

職業が職業ですからね奥さん、とんでもないことになりますよ奥さん。

ご主人の職場にも連絡行きますしね奥さん、ここは穏便にね奥さん。

 

私は次の日は仕事が早番で、5時起きで出かけることになってました。

腹はたつものの、ここは荷物を引き取りにいかねば・・・・。

交番まで呼んだタクシーで駆け付けてみると、そこには目の据わりまくった

トドがなんとか椅子に腰かけておりました。

目の前の机には、お湯のみに入った水だかお茶がポツンと置かれていて、

それがもう妙にツボでこれまたおかしくて。

「ぶははっ」

こんなとこで笑う警察官の妻がおりますやら。

ご迷惑をかけた係の方々をさらに呆れさせたことかと思います。

 

往復で2万円ぐらいかかりましたかねえ、タクシー代が。

けれどもあの運転手さんはものすごく親切な方でした。力の抜けた

足がおぼつかないトドを9階のわが家に運ぶのを、ものすごく根気よく

手伝ってくださったのですから。

 

さすがの夫もこの出来事は結構ショックだったらしく。

「酔ってたから覚えてませぇん」などと言うことなく、ひとりで

交番と、タクシー会社(私が行くべきと怒ったので)に手土産持参で

謝りに行きました。

今でも本人はこのことには触れたがりませんし(当たり前ですな)、

私もあえて蒸し返すこともしませんが、その後目に見えてお酒の飲み方が

まともになったところからすると。

 

黒歴史なんですな、やっぱり(笑)。

 

「トラ箱に入れちゃえなんて言うなよォ」と情けなさそうに言う夫に。

だって腹がたったんだもん、と返したのですが。

 

その何十倍も心配したんだから。ああ無事でよかったと思ったんだから。

そんな夜がいくつもいくつもあったんだからね。

これは言わずにお腹にしまっときました。

 

長々と恥を書いてしまいましたが。

まああれもこれも笑い話にできる今となってほんとによかったと。

 

誰かに怒られることがあった時。それはその裏にそれだけの心配があり

ほっとした時にはそのぶん、あっついお灸をすえたくなるものなのです。

まあ全部が全部そうとは言い切れませんけれども。

 

そこにあるのは愛。そう愛なのです。

 

「ぶははっ」。

 

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そういえば、この方も。 

一昨年の夏。愛媛の海岸で遊ばせた際に(危険なノーリード!)

海岸線を一気に走り、階段を駆け上がって国道に出てしまうという

大変な暴挙をやってのけたことがありました。

この写真は「恐ろしい瞬間、このあとすぐ!」です。

左側におりますのが、例のトド・・・いや夫です。

この時は、先回りした夫が無事に道路の手前で捕獲しましたが、

私は怒りよりも、その場にへたりこんで泣いてしまいました。

これは悪いのは菜々子でなく、私自身だったからですねぇ。

もちろんこっぴどく自分を戒めました。

 

呼び戻しの声は、ハイになった「獣」には届きません。

ノーリードなんぞはいうまでもありませんが、脱走にはくれぐれも

気を付けたいものであります。

心配が取り返しのつかない後悔にならないように。